RF水素負イオン源の引き出しにおけるビーム振動の解析

 担当 : 林 克哉

欧州原子核研究機構(CERN)において新たな線形加速器 Linac4が開発されている.その粒子源として高周波放電型 (RF: Radio Frequency)水素負イオン源が用いられている。RF水素負イオン源は高周波電源だけでプラズマを生成できるため長く運転可能であり、さらに誘起された高周波磁場が連鎖的にプラズマを生成するため大電流ビームを実現できる。

RF水素負イオン源の模式図

 RF水素負イオン源ではイオン源から引き出されたビームの出力に振動成分が存在していることが実験から確認されている。今後、ビームの大電流化が進むにつれ、ビームを加速する際に振動によるビームロスの増大および装置損傷が問題になると懸念される。

計測されたRFイオン源のビーム振動(水色)

 この振動の原因とのひとつとして、RF負イオン源内のプラズマ密度が振動し、引き出し電場とプラズマが形成する電場が等しくなる境界(メニスカス)の形状が変化していることが考えられる。この境界面からビームが引き出し電場によって射出されるため、メニスカスはビームの収束性と密接な関係にある。

プラズマメニスカス

 そこで、本研究では、プラズマ生成の振動に対して、ビームの特性を決めるメニスカスの形状の変化をイオン源の引き出し領域において数値シミュレーションで解析し、原因となる物理現象の理解とRF負イオン源の改良に貢献することを目的とする。

計算手法としてはプラズマ自身の電場による複雑な運動とその運動によって変化する電場を自己矛盾なく計算できるPIC法を用いる。

PIC法は(1)でローレンツ力による運動方程式を解き、(2)でここでは割愛するが粒子位置から各セルごとに電荷密度を割り当てる。(3)でポワソン方程式を解き、(4)で電位から電場を得て次のタイムステップの(1)の運動方程式を解いて同様にループして計算していくというものである。

以下に初期プラズマ密度を増減させた場合の各メニスカスの計算結果を示す。

上から初期プラズマ密度比は1:2:3であり、これらは各ケースごとに定常プラズマになるまで計算している。プラズマが増加するほどメニスカス面は引き出し側へと移動していると共に形状に変化が見られる。これらの結果からRF負イオン源内部のプラズマが密度振動はビームに影響を及ぼすことが理解される。