担当:S.K
背景
次世代の持続可能なエネルギー源として核融合発電が期待されている。トカマク型核融合炉では、高エネルギーの核融合プラズマを磁場によって閉じ込めている。衝突などにより閉じ込め領域から漏れ出したプラズマが核融合炉内部のタングステン壁と衝突することで壁を損耗し、稼働率に影響を与える。また、損耗により壁からはじき出されたタングステン不純物が、その場の壁や近傍の壁に堆積し、核融合炉の運転を阻害する恐れもある。
目的
損耗の抑制と堆積位置の制御には、タングステン壁の損耗・堆積解析が不可欠である。先行研究[1]では、プラズマによる負荷が最も大きいダイバータ壁の損耗・堆積解析が行われたが、ダイバータ壁以外の炉壁(以降、第一壁と呼ぶ)にも不純物が輸送され同じような損耗・堆積が起こる可能性がある。第一壁は大きな面積を持つうえに、表面のタングステン厚が薄く、また核融合炉の燃料生成を担う機器(ブランケット)と共有されるため、その設計に向け解析が必要となる。本研究では、第一壁の損耗・堆積を評価できるようにモデルを拡張し、定常状態の不純物密度分布およびタングステン壁の損耗量・不純物堆積量を解析する。
[1]Y. Homma, et al., Nuclear Materials and Energy, 12, 323(2017).
方法
本研究では、先行研究と同様にモンテカルロ法を用いた不純物粒子輸送コードIMPGYRO[2]を用いる。本コードでは、実形状・実磁場配位での不純物の輸送を追跡する。また、背景プラズマと不純物のクーロン衝突を、2体衝突モデルを用いて模擬することで、不純物輸送に重要な運動論的な熱力や摩擦力を考慮している。本研究では、第一壁の損耗・堆積を評価できるようにモデルを拡張し、定常状態の不純物密度分布およびタングステン壁の損耗量・不純物堆積量を解析する。
[2]S. Yamoto, et al., Computer Physics Communications, 248,106979 (2020).
結果
定常状態での第一壁の損耗・堆積速度分布をFig. 1に示す。Figure 1より、正味として不純物粒子は第一壁に堆積し、その最大値は 4.2×10-11 m/s 程度であることがわかる。ダイバータから発生したタングステン粒子の多くが第一壁に堆積している。この堆積するタングステンによる損耗も比較的大きいが、発生直後にイオン化し、発生箇所付近の壁に堆積している。また、不純物粒子が堆積する位置については、磁気ドリフトやSOL領域での拡散の影響によって、核融合炉の赤道面(0度や140度)付近に多く堆積している。

Fig. 1 Wall erosion and deposition speeds along the wall surface. Angle of 0 degree corresponds to the equatorial plane of the fusion reactor.
結論と今後の展望
本計算の条件下では、第一壁にタングステン不純物が堆積することがわかった。年単位での稼働を考えると、炉壁に数ミリメートルほどの不純物が堆積することになり、核融合炉運転の妨げになる可能性がある。今後は、異なるプラズマ分布での評価やプラズマと不純物素相互作用の考慮等を進め、ダイバータ壁の損耗及び第一壁への堆積を減らすための制御手法の検討を進めていく。