担当 A.S
研究背景・概要
近年、次世代の発電方式として核融合発電が注目を集めています。核融合発電では、核融合反応を利用し、少量の水素から莫大なエネルギーが得られ、発電の過程で二酸化炭素が発生しないことから、我々が抱えるエネルギー問題、環境問題を解決するものとして期待されています。ですが、この”夢のエネルギー”を実現するためには様々な技術的課題をクリアする必要があります。その一つが、核融合炉内で熱が特に集中する「ダイバータ板」という壁の形状維持です。
ダイバータ板の損耗過程
核融合反応のために熱せられた水素プラズマは、およそ1億℃という高温の状態にあります。この高温のプラズマを装置内壁に接触させずに保持するために、磁場によって浮かせつつ閉じ込めます。ですが、この磁場による閉じ込めは完全ではなく、一部のプラズマは漏れ出して核融合炉内を移動します。その結果、高温のプラズマ粒子はダイバータ板にぶつかり、ダイバータ板の材料原子であるタングステンをたたき出します。このたたき出しによる壁の損耗が大きいと、発電装置としての機能を維持することができなくなるため、壁の損耗を低減することが核融合発電実現の課題となっています。
壁損耗の低減という課題の第一段階として、現在核融合炉として想定されているプラズマ状態でどれだけ壁が損耗するのかを評価することが本研究の目的です。
研究方法
本研究では、壁の損耗量を評価するために、壁からたたき出されたタングステン粒子の輸送過程を数値シミュレーションを用いて解析しています。シミュレーションには、プラズマ中でのタングステン粒子の挙動を模擬し、ダイバータ板における粒子のたたき出しの計算を行えるIMPGYROという粒子シミュレーションコードを用いています。ダイバータ板からたたき出されたタングステン粒子数を損耗量、ダイバータ板に帰還したタングステン粒子数を堆積量として、正味の壁の損耗量を評価します。本研究では、プラズマの状態は一定として扱っていますが、より信頼性の高い解析のため、今後はプラズマとタングステンの両者が時間発展するモデルでのシミュレーションを行う予定です。