水素負イオン源内における不純物輸送過程の解明

担当 : G.S.

核融合発電には二酸化炭素を排出しないことや資源が豊富に存在することなど、従来の発電方法にはない多くのメリットがあり、核融合エネルギーは究極のエネルギー源とも言われています。核融合発電を実現させるためには炉内で核融合反応を持続的に起こす必要があるのですが、現在の技術ではそれが難しく、実現には至っていません。私の研究では、炉内で核融合を起こすのに必要な水素負イオンを生成させる水素負イオン源という装置に着目しています。

水素負イオン源から発生した水素負イオンは途中で中性化されて炉内に入射し、炉内のプラズマ粒子と衝突することで核融合プラズマを加熱します。取り出される水素負イオンの量が多いほど炉内に入射する粒子の数が多くなるために炉内はより効率的な加熱を行うことができ、持続的な核融合反応に繋がります。つまり、水素負イオン源の装置改良が核融合発電の実現のために必要な要素であると言えます。

水素負イオン源内において、水素負イオンの生成過程としては体積生成過程と表面生成過程の2つがあります。ここでは体積生成過程については省略し、表面生成過程について説明します。

水素負イオン源内の壁表面に水素原子や正イオンが入射すると、水素負イオンが生成されます。

H, H⁺, or H₂⁺ + wall → H⁻

このとき、壁表面にはセシウムを加えてセシウム層を作ります。セシウムを加えた理由としては、セシウムは仕事関数が小さい金属であるのでセシウム層があることで壁表面の仕事関数が低下し、水素原子などは壁から電子を受け取りやすくなって水素負イオンの生成量が増大するからです。セシウム原子は水素負イオン源の天井から注入し、底面に吹き付けます。この過程でセシウム原子は装置内に広く存在する電子と衝突電離してセシウムイオンとなり、このセシウムイオンは不純物として装置内で輸送されます。私の研究ではこの不純物となるセシウムイオンが装置内でどのように輸送されているかを詳しく知ることを目的として研究を行っています。

研究手法としては、背景粒子との衝突を考慮した磁場中のイオン粒子の運動方程式を解くことでイオン粒子の軌道追跡を行います。衝突過程は、一様乱数を用いたモンテカルロ法により計算されます。