担当: 能見 桂太郎
研究背景
スイスの欧州原子核研究機構(CERN)では大型の加速器を用いて素粒子研究が進められています。主に、LHCと呼ばれる大型ハドロン衝突加速器を用いて超高エネルギー粒子の衝突実験を行っている。
高周波放電型水素負イオン源(RF水素負イオン源)は負イオンビームを生成する装置で、生成効率が高いことに加え長い運転時間が確保できるため、CERNで新しく開発されている線形加速器LINAC4において利用されている。しかし、負イオンビームを生成するRF水素負イオン源は、引き出された負イオンビームに振動成分が含まれることが観測されており、以下がその様子である。この原因の解明が現状RF水素負イオン源の課題となっている。

負イオンビーム振動の様子
先行研究において、負イオン源内のプラズマ密度が時間変化するとビーム振動が起こる可能性があることが数値計算により示された。しかし、実際のRF負イオン源では、密度よりも温度が振動している可能性が指摘されている。 そこで、本研究では、負イオン源内のプラズマ温度が負イオンビームの引き出しに与える影響について数値解析を行い、ビーム振動の物理機構を解明することを目的とする。
RF負イオン源内のプラズマ温度を周期Tで20%振動させた時の特徴的な時刻における負イオンビーム引き出し面の様子が以下である。

この結果から各時刻における分布の振動は、プラズマ振動もしくはシミュレーションにおける統計的なノイズと考えられ、ビームの収束性に影響するビーム引き出し面の形状は、プラズマ温度の振動に対してほとんど影響を受けていないことがわかる。
今回、内部の密度については詳しく調べられていないが、温度を変えた効果が、温度そのものではなく密度を通して影響していたと考えられ、非定常シミュレーションでは、密度変化が温度変化に追従していないためにメニスカスにほとんど影響がでていない可能性が考えられる。